Ae Fond Kiss

『ケス』、『スィート・シックスティーン』のケン・ローチ監督の最新作。


なんかサッカー抜きの『ベッカムに恋して』みたいな話です。
なんかもう二捻りぐらいできるんじゃないのかな?というのが正直な感想。

ベッカムに恋して』との比較
親の文化  宗教    西洋化の象徴      恋人
インド   シーク教  サッカー、肌を見せる  サッカーのコーチ
                         (アイルランド系)
パキスタン イスラム教  DJ、自由恋愛     音楽教師
                         (カソリック=アイルランド系?)

その他の共通項
上の姉は親の薦めに従い結婚する予定
白人、異教徒との恋愛はご法度
親が定めた将来のレール(妹の大学進学先など)
姉は結構性悪

細かいディテールや小芝居は結構面白い。
妹が校内の弁論大会みたいなもので、グラスゴー・レンジャースのサポーターだと言ったために、逆に同級生の男の子たちからいじめられてみたり。恋人の音楽教師が常勤にならないかと、校長から言われて、うれしさのあまり急遽スペインへのバカンスを申し込んでみたり。そのバカンスへ親に内緒で同行するも律儀にコーラを飲んでいる主人公とか。また、その常勤職のポストを得るためにに教会の承認が必要となり、そこで神父から婚前性交渉の有無を問われて、切れてみたり。結局彼女は、カソリックであること、恋人がイスラム教徒であることがばれ、常勤講師になれるどころか、職を失うはめになるのだけれども。

それ以外にも親父さんのオーバー・アクションや良くわからない英語とか、ほとんど英語を喋らないお袋さんとか、両親からパキスタン語?で話しかけられても、英語で答えてしまう子供達とか、まあ細かいディテールはそれなりにおもしろくできている。

でも、話のプロット、古い共同体の論理と新しい世代の価値観の相違、とくに恋愛に関して、というものはもはや古典的なものだと思う。それが、旧植民地出身の越境者をベースとしているところが新しいのかもしれないけど、それも他に似たような作品がないわけではない。

また、ケン・ローチ作品に共通する「家族の絆/しがらみ」みたいなテーマは、今回もベースにあるのだけれども、恋愛がそれに絡むゆえに、どうしても安直な結論になってしまっているような気がする。もちろん痛く切なく、葛藤するのだけれども、『スィート・シックスティーン』と比べてどうかと問われると、そこまで感情を揺さぶる力は今回なかったように思える。

となると、ラブ・ストーリーとしての強度が映画の生命線ということになるのだろうけど、主人公が結構煮え切れない奴で、同じ男性として、あんまり感情移入ができなかった。恋人の白人女性の方が、まだ、感情のゆれ幅が、僕に近いのかもしれない。

切ない話だけれども、暗くはない。でも、なんか不完全燃焼な気がする。予告編でやっていた(確かMambo Italiano.)イタリア移民の家族とゲイに目覚めた息子の物語の方が、なんか同じような設定なら、もう少し捻りが効いているかな、と思った。

無論、ケン・ローチからしてみたら、恋愛映画のエッセンスを援用しつつ、お得意の「家族の絆/しがらみ」をベースにしつつ、今のグラスゴーを描きたかったのかもしれないけれども。でも、グラスゴーって、もう10年ぐらい行っていないからよくわからないだよね、実際。ダブリンと違うのは、ダブリンは移民の流入が激化したのはここ10年ぐらいの話だから、まだ2世の恋愛ストーリを描くのはちと無理があるということと、ダブリンで高校の非常勤講師程度の稼ぎじゃ市内に一人暮らし用のアパートを借りるのは結構大変ということぐらいかな。そうかスコットランドに留学すれば、もう少し楽な生活がおくれたのか。