そういえばこういう真面目な観光ってほとんどしていないな

朝早く起き、シャワーを浴び、諸連絡のメールをかちゃかちゃと書き上げて、家族に合流。
ちょっとばかり遅刻。ホテルの近くのカフェで朝食。
オヤジ樣曰く
「なんか適当に見繕って頼んでおいてくれ。」

無茶なこといいますな、相変わらず。
まあ適当に頼んで、ご機嫌を取る。

その後ツーリスト・インフォメーションで、市内観光用のパスチケットと観光バスのチケットを購入して、大学へ。

まあ、一応僕が今居る場所を案内。「ケルズの書」とかもね。日本語でほぼ完璧に説明できるガイドはそうはいないぞ、もう少しありがたがれ。

次は観光バスに乗って、美術館へ。ええ、バスを乗る距離ではぜんぜんないけど、せっかくだから。アイルランド国立美術館は最近改装して大きくなっていて、昔行ったときとちと勝手が違っていた。前行ったとき、たぶん99年は、改装工事中で見れなかったカラバッチョも拝めた。このあたりで既にオヤジ樣は疲れ始める。

おいしいと評判の美術館併設のレストランで昼食を取り、観光バスに乗って一路ギネス工場へ。ここも実は行くのは初めて。オヤジ樣ご一行はアムステルダムでもハイネケンの工場見学したらしく、本気でビールめぐりの旅らしい。ちなみにアムステルダムハイネケン工場なんぞ行かなかった僕。工場で飲むビールがおいしいのは認めるが、そんな金があったら、パブで3杯ぐあい引っ掛けた方がお得と思う僕は、どうやらあんまり観光に向いていない模様。

でも、このギネス工場。一番上の展望台のところで、ギネスを呑みながらダブリンを見渡せてて、結構面白かった。

その後、また観光バスに乗りフェニックス・パークをちらりと見つつ、街中へ戻る。僕の予定では、アイリッシュ・ウィスキーのジェイメソンの工場見学までする予定だったのだけど、妹樣とお袋樣が、

「そんなんどうでもいいから買い物させろ」

とせかすので、観光を切り上げて、ショッピングへ。明日一日ショッピングする予定でしょ、君ら、と思いつつ、親父様ももう観光飽きたから、ダブリンの「アマチュア無線ショップ」へ連れて行けとごねる。そんなん見てどうするの?と思いつつ、彼の数多い道楽の一つだし、おそらく今後数十年にわたってネタにするつもりだろうから、しょうがないやと諦める。一人30ユーロぐらい払ったダブリン・パスというフリーパスはぜんぜん元が取れなかった模様。もうちょいと真面目に観光したいのかと思って、気を利かせたつもりだったんだけどね。まあしょうがない。

ショッピングといっても、ダブリンは僕の感覚ではおそろしく買い物には向いていない街である。お袋樣も妹樣も、共にブランド物を買い捲るようなタイプの人間ではないので、普通にいいものが欲しいらしい。できれば、アイルランド的というかヨーロッパ的なものが。そんなもの、日本のどこだって、もっと安く買えるだろう、と思いつつ、まあ旅の思い出づくりとして、そういうものが必要なんだろう。

彼女ら曰く
アムステルダムにはいいのがなかった」
そうな。それは君らが土地勘なくて、観光客が行くようなとこにしか行っていないからだろう、と思いながら、まあ、最初のヨーロッパ旅行の彼女らに、たった二日の滞在でそこまで要求するのは酷なことだろうと、納得しつつ、彼女らの要求にこたえるべく最大限の努力を。

「かわいいニットが欲しい」
とか
「安くていい革製品」
とか
「小粋なアクセサリー」
とか
「素適なショール」
とか、ダブリンの僕の生活では、なかなか必要としないものばかりで、結構大変だったけれども、まあ、なんとか、伊達に一年もこの街で暮らしてはいない。どうにかなる。

結局、オヤジ樣とお袋樣が靴を一足ずつとか、なぜかオヤジ樣が欲しがった大学のロゴ入りのラガーシャツとか、その他こまごまとしたものをちらほらかって、本日終了。店が6時半には閉まるから、日本の感覚でショッピングをするのは結構厳しい。だから、明日は朝からやっぱりショッピングらしい。オヤジ樣はそれに付き合いきれないらしく、変に気に入ったテンプル・バーでスケッチをするとか言い張っている。あんな治安が悪くて、汚いところのどこがいいんだか、さっぱりわからないけど、言われてみると確かに、パブとかレストランとか小奇麗にしているところは多いし、石畳の街だから、情緒はあるのかもしれない。でも、そのへんは僕にとって既に日常空間だから、もう感覚が麻痺してしまっているのだろう。僕に見える景色と彼らが見ている景色はだいぶ違うのかもしれない。

僕にとってのダブリンは若くて活気はあるけど、ちゅうとハンパな都会で、そのちゅうとハンパさ加減が、時たましゃくに障るのだけれども、彼らにはそうは写っていない。日常と非日常、基準となる都市経験、それにライフスタイル。さすがに御年60近い両親と、僕の価値観が違っていたとしても不思議ではない。妹さんはボソッと、

「広島の方が都会だよね」
とのたまっていたけど。まあ、広島はカープがあるし、飯も酒もうまいから、ダブリンは勝てないと、一旅行者としての経験を踏まえて同意するけど。

夕食は、ケバブ。デーム・ストリートにある、ファースト・フードに近いお店。ここは、死ぬほど肉が食えるので、たまにご厄介になるお店。*1道を歩いていると、肉汁のしたたるさまがマジマジと見えて食欲を誘う。それに親父様は引っかかったらしい。なんでも、生まれてこの方、この手のものを食べたことがないらしい。だから、どうしてもこれが食べたいと言い張る。

一応、確認のために、この店のヴォリューム、ケバブはあんたの不得意な羊肉が中心的なメニューであること、サーヴィスの悪さ、店の居心地の悪さを説明して、もう少し先に、もうちょっとまともなケバブの専門店あるけど、どうする?と尋ねる。でも、ここで食べたいとのこと、しょうがない。

この店、店内で食べてもテイク・アウェイでも同じ発泡スチロールの容器に入れてサーヴィスしてくれる素適なお店。親父様は、ビール、ビールと叫んでいるけど、そんなもん、ダブリンの安い店で飲めるわけないだろう、と説得し、カウンターで適当に見繕って、注文。多分2人前(チキンとラムのセット)で充分だろうと思ったら、大人4人で食いきれなかった。そして、案の定不評。気を利かせてソースを少ししか掛けなかったけど、それでも味が濃く感じたらしい。そういうもんなんだから、諦めろと説明しても、どうして外国の人間は飯を不味くしか作れないものか、とか物凄いことを言い始める。やれやれ。

そんなこんなで、大量のラムとチキンと格闘しつつ、小一時間ほどステレオで両親からの小言を聞き流す。まあ年に何度かのお約束だし、小言を言ってくれるうちは、まだまだ健在だろうからと思いながら、ありがたく拝聴させていただいた。

疲れたものの、3日目終了。そして実質後一日。早いものだ。

*1:わかる人にだけ、非常にわかりやすく言うと、僕にとってこのお店で食事をするということは、西千葉の某定食屋で、「ジャンボ・チキンカツ定食」を食べることと同義です。精神修行の一環というか、自分を超越するための儀礼とか、そういう感じ。だから、非常に稀に、どうしてもそこにいかなくちゃいけない瞬間があるのです。