テリー・イーグルトンなわけで

旅行を明日に控え、体調の方は今ひとつ。なんか症状は、花粉症っぽいんですよね。当然日本では、結構ひどめの花粉症持ちでした。ヨーロッパに来たから大丈夫だと思っていたのですが、一応こちらでも春先には日本とは違う種類の花粉が飛ぶそうで、日本ほど深刻じゃないけど、少しは花粉症持ちの人がいるとのこと。しばし、様子を見るしかないけど、日本のような対策グッズがあるわけではないので、もし花粉症になっていたら、結構深刻です。

とはいえ、やるべきことはちゃんとやらねばと、午前中は近くのショッピングモールにプリンターの価格調査。午後は荷造り。で、夕方からは、奨学金を下さっているありがたい人々の集会に顔を出す。旅行前だからサボろうと思っていたものの、そろそろスピーチをやらなきゃいけなくて、その日程調整、および集会場所が変わるということで、その場所も確認しなくちゃいけないので、どうしても今週顔をださなきゃいけなかったわけです。何せ、来週の水曜日はセント・パトリックス・デイ。*1この国一番の休日で、どこもかしこも大変な騒ぎになるので、おそらく集会どころじゃないだろうことなので。

で、新しい集会場所らしきところまで行っても、どこか良くわからなかったので、同じ奨学金をもらっている留学生に電話で尋ねたら、「昨日メールが来て、場所の予約の日程を間違えたらしくて、今日は元の場所でやるらしい」とのこと。僕のところには当然そんな通知は来ていません。やれやれと思って、いつもどおりの場所へ。

そんなこんなで、集会が始まる前に、その人と少し話していたら、今日は途中で抜けなきゃいけないとのこと。何で?と聞いたら、「テリー・イーグルトン」の講演があるので、それを聞きにいくとのこと。はい?イーグルトン来ているの?なら、行く。と僕もついていくことに。

で、このイーグルトンという人。あまりなじみのない方もいるかもしれないので、簡単に説明すると。筒井康隆の『文学部唯野教授』という小説の主人公のモデルとなったとされている大橋洋一という人が、翻訳をしているというか、影響を受けている文芸批評の有名な学者さん。てわかりにくいか。とはいえ、この小説のもとねたは、イーグルトンの『文学とは何か』という本で、両方とも非常に面白いので、ぜひ読んでみてください。

で、なんで、歴史を一応専攻している僕が、イーグルトンのファンかと言うと、彼はアイルランド文学と政治の関係性をずーっと問題にしていて、僕の研究と重なるところが大きいというか、同じようなテーマ設定で研究していて、相当影響を受けている人なわけで、「死ぬ前に一度拝んでおこうリスト」の最上位に位置している学者さんです。*2

何でも『ユリシーズ』100周年とかで、結構イベントがあるらしく、その一環で、講演をするとのこと。開始時間が夜8時という辺りが、非常にアイルランドらしいのですが。50人ぐらい*3の客の前で、子一時間ばかりお話を聞いてまいりました。明日朝早いのに。

講演は、客層が知的好奇心旺盛な一般市民を対象としていることもあり、だいぶわかりやすく、こまかい点を結構省略しながら、大枠でイギリスとアイルランド文学の関係について、当然ジョイスを中心に、て感じ。ゆっくり喋っているし、話の内容は当然、前もって知っているから、理解に困ることはほとんどなし。人間興味があることとないことだと、こうも違うかという、いい例です、はい。

でも、最近、この人、やたら「伝統」に固執していて、それがオチになるというのは、やっぱり物足りないなぁというのが感想。「伝統」が創られるメカニズムなんて、十分に理解しているはずなのに、ポストモダニズムを批判するために、あえて「伝統」を主張する方法は、やっぱり欺瞞じゃないのかなぁ、と思う。実際、この人、だいぶポストモダニズム的な発想に近いと思うんだけど、そういう自分を認めたくないから、あえて、批判の立場を取っているような気がしてならない。この辺は68年がらみの問題に直結しそうなんで、良くわからないのだけれども。

まあ、それでも、生イーグルトンはちょっと感動もの。5メートル前でイーグルトンが僕に向かって喋っているというのは、だいぶ夢のような状況なわけで、ジョイスがテーマの講演じゃなければ、その辺をつっこんだ質問でもしようかと思ったぐらいで。いやいや人生何が起こるがわかりません、ということで。

そろそろ寝ないと明日が怖い今日この頃です。

*1:日本でも原宿あたりをパレードしているはずです。手伝えと何度か指令が飛びましたが、ことごとくしかとしていたので、規模などはよくわかりません。アイルランド大使館のホームページなどを参照してくだされば、詳細がわかると思います。

*2:長らく一位だったサィードなき今、もしかすると彼が一位だったかも。

*3:うち日本人が5人。僕の知り合いの歴史系の大学院生0人、というあたりに、アイルランドの人文科学系の問題があると思うんだけどな。昨日そんな話一つもでなかったぞ、おい。