愛と幻想とレイシズム

正直ちと怖かった。
でも、ちゃんと書くよ。
これから旅行とかでアイルランドで来ようとか思っている人や、「アイルランド人ってやさしい」とか幻想を持っている人は*1、こういう事例もあるんだって念頭においておいてね。

ことの起こりは、昨日の夜、チャンピオンズ・リーグ予備選第一回戦セカンド・レグ、シェルボーンVSグレントラン戦を見た後の話。試合試合はシェルボーンが地力の違いを見せつけ4-1で圧勝と、いい感じ。僕は気持ち良くスタジアムを後にし、もよりのバス停留所からバスにのる。たぶん13Aだったと思う。

ダブリンの土地勘のない人に説明すると、ダブリンの北側は一般的に危ない。中心部も深夜は結構危ない。これでもヨーロッパで最も安全な都市という触れ込みだが、僕の感覚だと東京より数段危ない。これはドラッグの使用率とも関係すると思う。そして僕が遭遇した事件も、おそらくそういう関係だと思う。

バス停で一番最初に並んだしまい、後ろにそれなりに人が並んでいたので、普段は絶対上がらない、二階建てバスの上へ登る。ダブリン北側に一年近く住んでいた経験からすると、北のバスの二階は無法地帯。言い訳程度に監視カメラは付いているし、たまに正義感の強い運転手だったりすると、その違法行為をバスを止めて注意したり、そのまま警察に通報したりするんだけど、それは稀。どれぐらいの違法行為があるかというと、タバコを吸うぐらい*2ならかわいいもの。喧嘩、大麻なんでもあれだったりする。今のところダブリン南側では見たことないので、北側、特に郊外の町経由に限定されるのかもしれない。少なくとも僕の経験では。でも、これまで、被害に巻き込まれることはまったくなかった。大麻吸っているアンちゃんなら、怖いが基本的に平和的なので危険は少ない。

そういうわけで、二階に上る。一番後ろの席に、ドカっとバカップルが座っているのが見える。まあ相手にしない。する必要がないから。

そうこうしているうちに、後ろから何か声がする。最初は電話でもして、受話器越しに電話をしているんだろうと思った。でも違った。

そしたら何かが飛んできた。なんか興奮しているみたい。振り向いて刺激するのも何だしと思ってシカトした。他の客席もそう。この時点で、皆、「こいつらヤバイ」という共通認識が既に出来上がっていたんだと思う。

次の瞬間顔の横をペットボトルが通過した。明らかに僕を狙っていると感じた。咄嗟に振り返ってしまった。おかげで彼らが何を罵っているかが良くわかった。

簡単に日本語訳をすると「氏ね、中国人」。まあそんな感じ。少なくともまともな人間が公共の場で口にする言葉じゃない。身の危険を感じたので、おとなしく彼らの視野から消えることにした。普通はこれで解決する。しかし、それでは終わらなかった。

僕は階段の方へ向かう。階段を下りる最中、上の方からドタドタと音がした。難だろうと、振り返ると、バカップルの女の方がダッシュで近づいてきて、蹴ってきた(空振り)。慌てて、下へ逃げると、上からまだj呪詛を吐いている。そして最後に唾を吐きかけた。(よけた)

さすがにカチンときて。階段を上り、怒鳴ってやった。「日本人だよ、バーカー」と。

でも、それで事件は終わらなかった。

僕とバカップルのやり取りは、二階の乗客のみならず、下の客まで伝わってしまった。まあそれぐらいわかりやすいいざこざなのだった。周りの人たちも、可哀想な目で僕を見つめる。いやたいしたことないっすよ。と、思っていた刹那。次のターンが始まった。

ちょうど階段のしたぐらいに僕は位置していた。一階はそれなりに込み合っていたから。気がつくとバス停が近づいており、上から人が下りてくる気配だった。人が来たので、自然に体とそらす。そしたらありえない位置に人の頭があった。そう、降りて来たのはバカップル。彼氏の方が、僕にヘッドバットを仕掛けた瞬間だった(空振り)。体をそらした瞬間、昔取った杵柄とかで、とっさに頭を巣ウェイ・バックしていた。でも瞬間、狐につままれたように硬直していた。こいつらマジでヤバイ。当初てっきり酔っ払っているのだと思っていた。でも、酒の匂いがぜんぜんしない。泥酔しているならそれなりにアルコールの匂いがしてもいい。僕はそのとき死ぬほどアルコールを欲していたから、ちょっとしたアルコールの匂いでもかぎ分けられただろう。すると、この異常さは酒じゃない。念頭にはあったけど、ドラッグ。しかもダウン系じゃない、ちとヤバイやつ。街やライブ会場でたまに見かけるけど、そういうのに絡まれるとは思わなかった。しかも、「間違った」人種差別で。

頭突きは寸前で交せた。でもまだ二人で呪詛を吐いている。どうやらここでおりるらしい。男は「オマエもおりろ」とか叫んでいる。意味わからない。女はまた唾を吐いた。今度は毒霧のように。さすがにカチンと来たので、ガンを飛ばしつつ、もう一度言った、「日本人だって、アホ」。

たぶん最後の四文字言葉がいけなかったんだろう。それにもうバスを降りると安心した僕のミスだろう。彼らは僕の想定外のことをやってきた。ダブリンの二階建てバスは乗降口が二つある。普段は前の入り口しかつかわない。真ん中の出入り口はよっぽどのことがないと空けない。で、ぼくはちょうどその前にいた。気がつくとそこの前で、男がなんか言っている。言っていると思った瞬間ドアがあいた。外にある非常用のドアのスィッチを押してドアを開けたらしい。開いた瞬間蹴り(空振り)。もう一発蹴り(空振り)。右の方へ体を寄せてよけたら、ちょうどそこへ女の蹴りが入ってきた。(太ももに軽く当たる)。さすがに当たったので、ちょっと切れて、女の顔面スレスレに当たらないように蹴りを放つ(空振り)。

男が逆切れ気味にバスに乗り込もうとした瞬間、バスの運転手がドアを閉めてバスは出発。・・・一対何だこれは。


正確に言うと、僕は中国系である。といっても10何世。僕のご先祖様が沖縄にやってきたのは16世紀のこと。だから、今ある現実の中華人民共和国とはなんらいっさい関係がない。もちろん、彼らが僕に伝えてくれた(文化)資本に関しては、感謝の気持ちはやぶさかではないが、だからといって中国にシンパシーを感じることはほとんどない。復帰後の生まれの僕は、たぶん日本人ということでいいはず。それに、僕はこの日、朝から彼らの国の一番伝統と格式のある大学の、それも大学院に提出するための論文作成で四苦八苦しており、しかもテーマはアイルランドの歴史だ。さらに、この国のチャンピオン・チームのヨーロッパへの挑戦を応援するためにわざわざ遠くまで応援しにいった帰りである。アイルランド人から「オマエもおバカだね」と褒められて、ギネスの1パイントぐらい奢ってもらえることはあっても、罵られることは何一つやっていない。

それに僕の観察だと、今のダブリンの経済はそういう中国人の(不法)就労にあまりにも依存しすぎている。アイリッシュが絶対やりたがらない仕事を、アイリッシュが絶対働かない賃金で、文字通り馬車馬のように働いて、システムを廻しているんだ。パブやカフェやコンビニやレストラン。どこにだって中国人は働いている。金曜日も土曜日も日曜日も聖月曜日もなく朝から晩まで。彼らが働くことで、国内経済がどうにか成り立っていて、その恩恵で生活保障を受けているような奴らに中国人を非難する資格はあるのか?

しかもおそらくジャンキーだ。ジャンキーじゃなかったとすると、理解するのはもっと難しい。だからせめてジャンキーだということにしておこう。何せ、半ば合法状態のオランダよりドラッグ使用率の高い国だ。それに、クマみたいな体型で、空手有段者の僕に、どうみても10代で体重50キロちょっとしかないぐらいのアンちゃんと華奢な女の子で、二人がかりでも、普通勝てないだろう。ジャンキー相手に喧嘩する気はしないけどね。ナイフとか出された洒落にならないし。こっちは論文抱えているから怪我だけは勘弁。あと外国人だから警察もできればお世話になりたくない。

でも、ちとひどい。対話の可能性がまったく閉じられた状態での暴力、しかも「間違えた」人種差別。今日僕は、このバスに乗り込むまですっげーいい気分だったのに、すべてぶち壊してくれて、本当にありがとう。

唯一の救いは、その後バス中のみんながすごく優しく、特にかわいい女の子達が、怒りで震えている僕を慰めてくれたこと。いい人は本当にいい人。でも、おバカさんも数少ないけど、確実に存在する。

そういうわけで、僕は人種差別はキライ。自分でされて嫌なことは、人にもしない。そして、この国は少しずつ、そういう傾向が広がっているというのも。当分リフィ川の北岸、バスの2階には近づきません。強がって書いているけど、結構怖かったよ、実際。

*1:持つのは勝手だし、優しい人はすっげー優しいのも事実

*2:今のアイルランドだと公の室内で喫煙するだけで40万円ぐらいの罰金が取られる