電波男

「オタクのオタクによる史上初のロックンロール文学」(byたけくまメモ)というのはまさにそのとおりであろう。「二次元」とか「萌え」*1というものがピンと来ない人もいるだろうけど、芸術家にとっての「想像力」みたいなものと置き換えると、わかりやすくなった。そうするとまさにジョン・レノンの「イマジン」*2の世界だ。だから「ロックンロール」だし、今現在「オタク」が既存の価値観を信奉する人々から攻撃されているのもわかる。「オタク」とは既存のシステムへのカウンター・パンチであり、「オタク」はそのシステムの根本を揺るがす深刻な「バグ」であり、だからこそ目の敵とされるのだ。そしてそのまなざしは、彼らがうまくそのシステムから「おりる」ことが可能であったという事実への、羨望の裏返し、妬みがあるのだと思う。既存のシステム内部で幸福になれる人間は、ほんの一握りにすぎないのであろうから。本書はその「おりる」作法の手ほどきである。

そういう「オタク」論であると同時に、「恋愛」論でもある。この「恋愛」に関しては本書から触発される形でいろいろと考えさせられた。それと同時に若干の違和感も。

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だいぶ前にお世話になっている年上の女性の方々とダブリンでお酒を飲む機会があった。どういうわけか話が途中から「負け犬」論になった。たぶん僕の個人的な恋愛についての質問がきっかけだったと思う。そんなことを喋らなきゃいけない筋合いはないし、話したいこともなかったから、いつもどおり適当に誤魔化していた。初対面の人間にそういう話をするなんて、僕の場合よっぽどのことがない限りありえない。たぶん「恋愛とかって、めんどくさい」とか言っちゃたんだと思う、話がそこから「負け犬」、そして「オニババ」の話へ。「オマエみたいな男がいるから、私ら負け犬よばわり、はてはオニババだぞ」みたいな感じで罵られた。いや僕関係ないから。

電波男』を読みながら、自分の体験に一番近いものをと考えたら急にこの話が思い出した。でもそれぐらいかな、たぶん。世間からかなり隔離された状況に置かれているから、確かにこの本に出てくるよう酷い目にはあっていない。だから、本当にそうなのかどうか、ぜんぜん実感はないのだけれども、もしかするとそういう方が一般的なのかもしれないなぁ、と漠然と思った。

そもそも、そういう風に「恋愛」が歪んじゃったのはどうしてなんだろう?本書では「恋愛資本主義」の形成に重きを置いている。たぶんそうなんだろう。で、ただもう一つピンとこないのはフェミニズムの影響って、どうなっちゃったんだろう?ということ。いわゆる「負け犬」(30代、未婚、キャリア)と呼ばれる人たちって、それなりにフェミニズムの影響受けていたんじゃないのかな?そういう人たちにとっての恋愛像というのと、この本で描かれるようなものがいまいちピントが合わない。そんなピントが合わない状況で語ることが許されるのならば、「男性化」した女性という感じだろうか。女性が男性優位の社会に新規参入していく過程で、何らかの形でその価値体系を受け入れてしまい、その「男性的価値基準」の言表をもってしか、男性を評価できなくなったのでは?という仮説です。もう少し噛み砕いて説明すると「仕事」を絶対とする価値基準の内部にあっては、男性同士の評価基準ってすごく単純化してしまえば「金」ということになると思います。さらにそういう男性が異性に求める最大の能力って容姿、つまり「顔」だったわけですよね?そういう価値体系に染まっていく過程で、彼女らの価値基準もそこに合わさっていったのかな?と。だから高度に抽象化された女性性に憧れるオタクと相性が悪いのはしょうがないのかな。身体は女性であったも、中身は男性なわけですから。逆にそういう価値観の受容のあり方って、(たぶんもう少し厳密に議論をしなきゃいけないことは重々承知だけど)フェミニズム的にはどうなのよ?もしかするとフェミニズムとかいっていた人たちと今負け犬と自称している人たちはかぶらないのかな?このへんは専門の人に投げっぱなしで。

もう一つは、オタクが「純愛」の形として「家族」へ回帰を指向しているのでは?という疑問。本田氏の場合は「あとがき」で述べられているような壮絶な家庭環境が影響しているわけだけど、例えば「CLANNAD」とかってそういう話なんですよね?エディプス・コンプレックス?家父長制への回帰?まあなんでもいいんだけど、オタクが近代が作り出したシステムから「おりる」ことによって異議申し立てを行っている主張と、その近代が乗り越えようとした「家族」への回帰って結びつくのだろうか。単純な懐古趣味というわけでもないだろうし、そのへん誰か語っている人
いるのかな?

ともあれ、

俺は夜空に誓った、俺はこんな「恋愛しているふりをするための恋愛」はしない、俺は真に愛した人とだけ、本当の恋愛をするのだ、と

この人の「愛」に対する思いは伝わった。この気持ちを罵るやつらはやっぱり敵でいいよ。

*1:これまでよくわからなかったけど、この本の丁寧な説明でなんとなくわかったような気がする。何でもOKでいいだよね対象。ならわかる。

*2:本文中にも替え歌が掲載されている