アイルランド VS 中国

後半70分過ぎに中国はとうとうロイ・キーンを引きずりだした。
交代するキルバーンから手渡されたキャプテン・マークを条件反射的に受け取ったロイ、すぐに表情は苦虫を噛み潰したかのように変わる。
おそらく
「俺にはこれをまく資格はない」とおもったのだろう。
ピッチへ小走りで入るとすぐさまその腕章をカヴァナーへ手渡した。

・・・

スターティング・イレヴンは公表どおり。一方の中国は5-4-1。

注目はこの試合代表2キャップ目のスティーブン・エリオット。生で見るのははじめての選手。印象は「小さい」。ただし、ポストプレーの際の体の張り方、DFを背負った状態での反転、ドリブルの切れ、スペースへの走りこみ、シュートの意欲、どれをとっても一級品。まだまだ若造。おそらく来年プレミア昇格、そこで揉まれながらもレギュラーを守り通せれば、ドイツW杯のころには主力級に成長しているだろう。前半開始そうそうにペナルティ・エリアで掴まれ倒されたのは録画放送で見直したけど、やっぱりPKの判定が妥当だと思う。今日のレフリーはジャッジが不安定というか、結構中国よりの笛を吹いていたのは、どういう要件だ。

一方のロビー・キーンはちょっと不調。かなりきついマークやタックルを受けていたとはいえ、もう少しがんばってもらわないと。ただし、前半途中からしきりに足を気にしていたし、後半にゴール前に飛び込んだところ、交錯しながらとはいえ、中国DFに強烈なエルボーを喰らうなど、ちょっと相手が悪かったような気がする。このプレーの結果、しばらく相手ゴール前で動けなくなっていた。その後クリントン・モリソンと交代した。

イスラエル戦に出してもらえなかったアンディ・リードは今日も再三いいパスを前線に送っていた。彼のふわりとした浮き球のパス、およびセット・プレーはやっぱり武器になると思うし、どちらかというと直線的な動きの多いアイルランド代表の前線において、タメを作ったり、ペースを変えられる稀有な存在だと思う。クロスに関してはイマイチだったけれども。

一方のダフは今日は前半だけでお役御免。まあいつものダフ。高速ドリブル、切り込んでのミドル。運動量も問題ないし。どうか6月まで怪我がないように。

キルバーンは普段より積極的だった印象。ヨーロッパ諸国と比べるとさすがにテクニックで劣る中国の選手からたびたびボールを奪取し、ゴール前への盛んに飛び出していった。なんでこういうプレーがイスラエル戦でできなかったと、小言の一つもいいたくなるが、まあ相手関係が違うのでどうしようもない。相手を引きずるようなパワフルなドリブル突破も再三見せてくれたし。ただ、後半から左ウィングに久しぶりに入ったものの、クロスの精度はイマイチ。もっとも彼が出ている時間帯には前線に電柱が居なかったわけだから、しょうがないといえばしょうがないのだけれども。

カヴァナーは今日の公式発表のMOM。守備でも貢献したし、パスの配給も良かった。楔のパスを受けての前線への飛び出しから何度か惜しいシュートも放った。インタビューでキャプテン・マークをロイから手渡された感想を聞かれて、なんか照れてかわいかった。

オシェイは良くも悪くもオシェイ。たくさんのチャンス・メイクと数度の致命的なパス・ミス。ただここのところ、攻撃のオプションとしてだいぶ機能し始めているのも事実。左ウィングを追い越して、相手ペナルティ・エリアに突っ込むなど、いい飛び出しがあった。守備はまあこんなもんでしょう。少なくとも左サイドを崩されるような局面はなかった。

カニンガムがいないと怖いということは、今日よくわかった。彼の読み、彼の安定感はやっぱり欠かせないものだと思う。今日は前半だけだったものの、後半に比べるとやっぱり前半は安心してみれた。6月まで怪我しませんように。

ダンは良いところと悪いところがはっきりした。フィジカルの強さ、執拗なマーキングで相手1トップを完全に抑えこんだことは評価する。ただし、後半、オブライエンとコンビを組んだときに、中国のカウンターでマーキングやポジショニングが若干ずれたことも事実。その局面はきっちり二人で挟み込んでフェアに潰していましたが。あれやられたらアジアレベルのフォワードというか、化け物クラスのフィジカルかスピードがないときついのは確か。

メイベリー、彼も長所短所が明確に出た選手。ロング・フィード、クロスの精度、オーバラップのタイミング、どれも良かった。ただし、足元、とくにトラップが若干下手なのと、守備の際にピッチ・レベルで見ていると中央に絞りすぎている傾向があった。このために彼が本来いるべきスペースを中国のWBの3番にかなり使われた。カウンターでも彼に走り負けして、危ない場所でたびたびファールで止めるなど、危なっかしい。要修行ということで。

パディ・ケニーは安心してみていられた。飛び出し、反応、ハイボール、キャッチング。まあ問題ないでしょう。キックの精度はいいときとわるいときがはっきりしているので、その辺が課題か。残念なことにギヴンが健在なうちはこういう機会がないと代表のゴール・マウスは守れないと思うけど、腐らずにがんばって欲しい。たぶんプレミア中位から下位チームなら問題なくNo.1に慣れると思う。

とりあえずスタメン全員の短評。前半は惜しいチャンスはあるものの、中国が必死に守って0-0で終了。中国は対アイルランドでやらなきゃいけないこと(2トップ+両ウィングにマンマーク、中盤での人的優位、ラインを押上げでコンパクトな陣営)を完璧に遂行した。なかなかいいチームだ。おそらくイスラエル戦のビデオを見て研究したのだろう。

で、後半。スタートの段階で、カニンガムoutオブライエンin、ダフoutミラーin
でフォーメーションはこんな感じ。

      ロビー   エリオット

キルバーン カヴァナー  ミラー   リード

オシェイ   ダン  オブライエン   メイベリー

         ケニー 

交代直後、ミラーが右ウィング、リードが左へと回ると思いきや、上記のようにミラーを中盤でテスト。CBはカニンガムの位置にダンが入り、オブライエンは通常の自分のポジションへ。これは明確にカニンガムが壊れた際のテスト。

ミラー、後半当初は中盤で、途中から右のウィングに入る。今日はかなり積極的だったと思う、ペナルティー・エリアの中へもたびたび侵入していたし、中盤、右ウィングと一試合のうちにポジション・チェンジした結果の感想は、彼は中盤の選手。右ウィングだと持ち味が生きない。でも現状だとプレミア・シップで中盤をやるにはまだ少し状況判断とフィジカルが弱い。ただ今日見た印象だと、フィジカルはだいぶ鍛えられてきたような気がする。まだ足りないけど。このままいくと中田英みたいな感じの選手になるのかも。スピードで勝負できない分、そういう成長が向いているような気がする。

オブライエン。まあいつもどおり。ニューキャッスルでやっているより数段落ち着いて仕事をしている。いつもの代表だと回りの選手はニューキャッスルと変わらないことを考えると、カニンガムへの絶対の信用を置いているのか、中盤での守備が機能しているので、彼に負担が掛かりづらいのか。それとも監督のせいなのか?彼がらみであぶないシーンはダンのところで触れた一度ぐらい。これは二人の間に走りこんだ選手にスルー・パスを送られたシーン。瞬間危なかったけど、オブライエンのほうが走りこんだ選手より若干早くコースを消しつつ、横からダンが綺麗に潰した。

後半に入ってもアイルランド・ペースは代わらず。ただし中国も何度か危険なカウンターを仕掛ける。ロビーがちょっと傷んだのと、前半から飛ばしていたエリオット、そしておそらくはこのタイミングでマクゲティを投入するつもりだったのだろうけど、状況が状況だけに、一度締めなおす意味もこめてロイの投入。

結果こういう布陣に

     ドハーティ   モリソン

リード  カヴァナー    ロイ   ミラー   

オシェイ   ダン  オブライエン  メイベリー

         ケニー 

前線にハイ・ポストが入り、運動量豊富なモリソンが引っ掻き回す。中盤はロイがきっちり締める。その結果、アイルランドの勢いが盛り返す。決勝ゴールはメイベリーからのロング・フィード。これをペナルティ・エリアの右角あたりで、スピードで相手DFを引き離し、飛び出してきたGKより先に追いついたモリソンが、ノートラップでループ・シュート。打った瞬間スタジアムが揺れんばかりの完璧なループ。代表戦ここ6試合で4ゴールのモリソン。一皮向けた、そういう印象。昨年のこの時期だと、スピードは通用しても、ゴール前で無駄に力が入ったり、あせったりで、なかなかシュートまで持っていけなかった彼が、落ち着き払って、あのループ・シュートを打てるようになったわけだから、何が起こるかわからない。

その後も終始アイルランドがポゼッションで上回る展開。終了間際、メイベリーがまた走り負けて、危険な位置からのFKを取られるも、これはケニーにきっちりキャッチして、試合終了。

おそらく明日のメディアは「中国相手に一点しか取れなかった」と失望すると思うけど、試合内容自体はそれほど悪くはない。課題はあるし、中二日で長時間移動後での疲労シックス・ネイションズ明けで二日ばかし雨が降った後のラウンズダウン・ロードの芝の痛みぐあい、などまあいろいろとあるわけだし、こんなものかな、と。

今日の中国はなかなか良かった。3バックの中央のキャプテン、左のストッパーでロビーにスッポン・マークをした選手、左WBの3番の選手は印象に残った。悲しいかな、噂によるとこのチームはこの試合を最後に解散するそうな。その後は現在18歳ぐらいの選手を中心に北京五輪に向けた強化チームを編成して、それをA代表扱いで各国を回り強化するとのこと。確かに五輪まで強化する真剣勝負の場が与えられないことへの不安や、国家の威信もあるのだろうけど、せっかく蓄積された経験をうまく伝えられないというのは、いいことなのだろうか?オーバー・エイジの問題もあるから、徐々に若手を編入していき、最終的に数人のオーバー・エイジと経験豊富な若手という感じにしたほうが、より建設的だと思うのだけれども。まあそこまでする余裕がもうないのかもしれないけど。