ワールド・カップ予選 スイス VS アイルランド 戦評

この試合の重要性は両チーム共に痛いほどわかっていたのだろう。

試合前の情報で、フランスがフェロー諸島に0-2で勝利したということが伝えられていた。しかし、スイスが6-0で勝ったフェロー諸島にフランスは2点しか取れなかった。これがどういう意味を持つのか。つまり、フランスはまだまだ本調子ではない。プレッシャーをかけるためにも出来ることならばこの試合で勝ち点3を上乗せしたい。そして相手は最大のライバルと目されている同士の直接対決。否応がなしにヒートアップするのは必然。

アイルランド代表は以下のフォーメーションで試合に臨んだ。

       ロビー モリソン

ダフ   キルバーン  ロイ    リード

フィナン カニンガム オブライエン カー
         
         ギヴン 

対するスイスは同じく4-4-2のフォーメーションながら中盤はダイアモンド型。

開始早々アイルランド代表はチャンスを迎える。中央での波状攻撃、リードの放ったミドルシュートのこぼれ球が左サイドでフリーになっていたダフの元へ、ダフの狙い済ましたクロスをスイスDFの間に飛び込んだモリソンが打点の高いヘディングで合わせ、先制。

しかし、この一点で目が覚めたのか、スイスが一気に攻勢にでる。前線から激しいプレスでアイルランドのバックパスのミスを誘い、再三チャンスを迎えるもののギヴンの好セーブもありなんとか凌のぐという展開。しかし、おそらくロイからのバックパスの乱れとマークのズレをついてスイスが同点に追いつく。1-1。

それにしてもスイスの前線からのプレスは物凄い。前線の3人(2トップとトップ下)がこれでもかとアイルランドDFにプレッシャーをかける。アイルランドの生命線というべき両サイドも同様。ダフにボールが回っても2-3人のスイス選手がコースをふさぐ、しかたなく右フルバックのフィナン、もしくは中盤のキルバーン、ロイへボールを戻す。当然そこにもプレスがかかるからしかたなくGKへ。そういう感じでアイルランドはなかなかペースを掴めない。

一方の右ウィング、リードはたびたびFWへいいボールを提供するも、今日はドリブル突破がことごとくスイスの積極的なディフェンスの前に封じられる。さすがにドリブル突破の技量ではダフに一日の長があるという感じだ。

そういう状況のためなかなかアイルランドはペースを掴めない。しかし要因は両ウィングにあるわけではない。ダフはそれでも一対一なら間違いなく、ドリブル突破を決めるし、2人相手でも何とかなる、しかし、その状況でのフォローが少なすぎる。フィナン、もしくは、キルバーンがそのフォローへ近づくのだけれども、その空いたスペースをスイスに使われる結果となり、結果としてスイスのカウンターの餌食となる。

これは、もう一つの要因としてやはりロイが本調子ではないということが挙げられるだろう。もちろんとても肋骨にヒビが入っている人間とは思えない人間の動きであるものの、危ないスペースを埋める動き、中盤でボールキープをしてタメを作ること、そして両サイドへの球の散らし、という彼に与えられた仕事に関して、こなしてはいるものの、トップフォームの状態から考えれば、まだまだ不十分という状況だ。

それでも、アイルランド代表はロビーの個人技そして、スペースへの飛び出しで何度かチャンスを迎える。最大のチャンスは、ロビーがペナルティーエリアでボール持ったシーンだろう。冷静な切り替えしから、DFを振り切り、強烈なシュート。しかしスイスGKのファインセーブ。こぼれ球がフリーのキルバーンの元へ。彼のシュートはスイスDFに当たってしまいゴールにはならなかったものの、ロビーらしさが発揮された瞬間だろう。

今日の彼は先日のキプロス戦と比較すればだいぶフィジカル・コンディションが上がっている印象を受けた。まだまだ100%とはいいがたいけれども。前半2回ほどあった、ゴール前でどフリーの場面、何度リプレイを見てもオフサイドには見えないけれども両方ともにオフサイドの判定を受け、ゴールにはならなかった。前半のリードからの柔らかいパスにほんの少し届かなかったこと、後半、セットプレーからDFラインの裏へ飛び出したシーンで、ドリブルが少し大きくなりすぎてGKにキャッチされてしまった所など、多少運にも見放されたかなという印象を受けた。

前半は、一進一退で、結局1-1のまま、終了。印象としてはスイスの前線からのプレッシャーの前にアイルランドはなかなかペースを掴めなかったというもの。それでも、ロビーの疑惑のオフサイドや、結果的にロイがイエローをもらったシーンでのスイス・ゴール前の攻防(ごちゃついてよく覚えていないのだけれども、アイルランドのシュートをゴールラインぎりぎりのところでスイスGKがボールをなんとか掻き出したシーンがありました。その時に、ゴール前まで詰めていたロイが興奮してスイスDFに肘鉄を食らわしてイエロー。)など、もう一点ぐらい取れていてもおかしくない展開。スイスの方もなんどか惜しい場面をギヴンの好セーブで阻まれたという感じ。

前半を見る限り、急造4バックと中盤の連携がどうもしっくりこない。これはDFラインだけでなく中盤も含めた問題だろう。スイスのプレッシャに負けて容易なバックパスからのピンチが多すぎる。これをどう解消できるのかが、後半の鍵になるだろう。

後半アイルランド、スイス共に交代はなし。アイルランドもバックパス自体は減ったような気がするものの、なかなかスイスの守備を崩せない。どちらかというスイス・ペースの展開。アイルランドは後半60分過ぎにリードに代わり、カヴァナーを投入。左ウィングのダフを右へ。中盤のキルバーンを左ウィングへ移動させる。アイルランドがペースを掴めないもう一つ理由はキルバーンパスミスだろう。今日はおそらくスイス守備陣の出足が早いために、ショートパスの精度が今ひとつ。慌てなくてもいいような状況でも慌ててしまい、結果スイスのカウンターの基点となってしまう。あと、本職のセントラル・ハーフと比べるとやはり守備が軽い。ロイが本調子なら問題はないのだろうけれども、現状ではどうしてもキルバーンへの負担が大きくなる。しかし、どうしてもここぞというときに、粗が目立つ。とはいえ、現在彼以上のタレントがいないことも事実。ホランドが10月のフランス戦までに目処が立つかどうかは今のところまだわからない。現状ではキルバーンのより一層の成長に賭けるしかないだろう。

一方交代したリードだが、今日はキプロス戦ほどの印象は残せなかった。守備でも貢献したし、FKやパス、あとロビーとのポジション・チェンジからゴール前へ飛び出す動きなど悪くはない。しかし、先にも触れたように、スイスぐらいの相手になると、ドリブル突破がなかなかしんどいのも事実だ。こういう大舞台で、全能力を発揮するまでには、まだまだ経験が足りないというのが、率直な意見かもしない。このワールド・カップ予選でアピールして、冬のマーケットで、できればプレミアの上位チームへ移籍できることを心より願う。

アイルランドの次の交代は、後半80分過ぎ、モリソンに代わりドハーティを投入。ポジションはそのままFWへ。この交代はパワー・プレイ対応なんだろうけど、その辺りから、スイスは最後の意地を見せ、怒涛の波状攻撃。アイルランド代表ほとんど全員がペナルティ・エリアまで戻り、なんとかゴールを死守。

最終的に1-1の引き分け。スイスとの第一ラウンドとしては結果は上々。アウェイで勝ち点1を取れたのだから、悪くはない。ただ、アイルランドにしてみても、スイスにしても、あと一点ぐらいは取れていてもおかしくはなかったような、そういう試合。共に少し悔いが残ったのかもしれない。個人的なMOMはギブン。今日の彼はまさしく神。スイスGKも神がかっていたので、こういう試合は両者一点ずとれただけでも幸いというところなのかもしれない。

イスラエルキプロスに2-1で勝利したそうな。これで、勝ち点4で4チームが並んだ。得失点差でスイスが1位、アイルランドがそれを追いかける展開。しかし、10試合中のわずか2試合が経過したに過ぎない。そしてアイルランドの次の相手は10月9日にアウェイでフランス戦。しんどい試合が続くものの、それまでにはけが人も復帰することだろうし、チーム・コンディションも多少上がってくるだろう。そして、できれば、フランスにはもう少し泥沼の中でもがいていて欲しい、そういう感じだ。