アジア・カップを終えて

最初に、予言じみたことを。
「中国は今世紀中にワールド・カップを取るだろう」

これはただの思いつきじゃなくて、結構確信を持っている。中国が分裂しなければという前提はあるけど。この根拠は、ヨーロッパで試しに暮らしてみればすぐ理解できると思う。いたるところに中国人はいる。そして現在、早い時期に移民した中国人家庭はもう3世代目に入っている。そのなかの一部分は経済的にも成功している。子供たちは地元の学校に通い、現地の人たちと似通った価値観をもっている。そしてこぞってサッカー好きだ。そういった中から、ジュニア、ジュニア・ユースを経て、ダイレクトにヨーロッパ・サッカーでプロになっていく人間が増えていくだろう。ようは近年のトルコ型の強化パターンである。違いは、トルコはドイツに依存する形だけど、中国の場合ヨーロッパ各地に分散している。ヨーロッパ生まれの中国人、いろいろな地域の良さや特徴をうまく吸収した若人がこれから大量生産されるわけだから、手に負えない。さらに、そこで得られたノウハウを本国へフィード・バックされるようになると間違いなく厄介である。中国サッカー協会がそこに目をつけるかどうかは、わからないけどね。

そうすると、長期的な視野からみると、人的な資源の観点からは、明らかにジリ貧の日本が取れる戦略は、出来る限り中国の国際進出を防ぐ、これしかない。国際舞台への出場から強豪国への道は、長く険しい。日本のケースから考えても10年じゃ足りない。20年近い年月が必要であろう。そういう観点から見ると今回のアジア・カップの優勝は非常に重要である。コンフェデレーションズ・カップへの出場権を中国に与えなかったのだから。

ワールド・ユース、オリンピック、ワールド・カップの場合、アジアに対する出場枠が複数あるし、最終予選での組み分けで中国と直接対決が必ずしも組まれるわけではないから、阻止することはむつかしい。しかし、コンフェデレーションズ・カップはそうではない。アジア・カップの優勝が必要条件なわけだから、今回の優勝は、中国のそれへの参加を妨げる意味で非常に重要である。

結果として、次のドイツ・ワールド・カップ、もしくは北京五輪まで中国代表が世界レベルで飛躍するチャンスを失われたわけだから。現状から考えると、日本代表の優位は当面揺らがないであろうし、このような状況をできるだけ引き延ばすことが、当面の戦略としてもっとも有効であろう。南アフリカでのワールド・カップまで日本の優位を継続できれば、21世紀の第一四半世紀中は大丈夫であろう。そしてそこまでがんばりきれば、間違いなく日本は世界の強豪の仲間入りを果たしているはずだし。

問題なのは、現在の日本サッカー協会にそういうビジョンがあるかどうか。これはだいぶ疑問。無論若年層への指導・強化のプログラムなど、ここ10年でだいぶ進んだんだろうし、Jリーグ発足以降の選手のレベルの向上、これも間違いない。しかし、代表に関しては、疑問は残る。2000年、もしくは2002年から、強くなっているのか?

個人の能力は上がったのかもしれない。勝負根性みたいなものも、だいぶマシになったように思われる。でも、そうじゃない面、おそらくそれは監督ジーコに由来するのかもしれないけど、戦術的な面などだいぶ後退しているように思われる。なんせ、前のアジア・カップはもう少し楽な試合が多かったように記憶しているし。ワールド・カップ予選もまたしかり。

とはいえ、この状況でジーコの解任はまずありえない。もし解任できたとして、だれがこの状況で監督を引き受ける?アジア・カップを優勝して、それでも監督を解任するサッカー協会を信用して、引き受ける監督なんてありえないだろう。いつ、どのような理由で首を切られるのか、はっきりしない仕事なんて引き受けたくないだろう。

そう考えると、問題の一番本質的な部分は、そういうノルマを明示的に示せないサッカー協会の、とりわけ強化担当ということになるんだろう。一応ワールド・カップでベスト8以上というのが、当初の目標だったと思うけど、これはノルマとしては、あまりにも漠然としすぎているし、現在のそれに向けての試みが成功しているとはあまり思えない。ここにどうメスを入れられるのか、もしくは、どう世論が誘導していけるのか、が、この2年の課題なんだろう。