「レコンキスタ軍団」VS「ヘレニズム暗殺団」by宇都宮徹壱@スポナビ (ポルトガルVSギリシア)

いろんなアングルが交錯している決戦である。
一つに大規模な国際大会で初めての開幕戦と同一カードの決勝戦。この2チームがどれだけ、この大会で進化したのか、というのは非常に興味深い。*1

一つに監督の采配。ギリシアのレハーゲル監督はこの大会で、もっともその株を上げた監督であることは疑いがない。しかしながら、ポルトガルのスコラーニ監督だって、評価されてしかるべきであろう。なにせ、先のワールドカップでブラジルを率いて優勝し、その後ポルトガル代表監督へ就任しての、この大仕事。同一チームでワールドカップ→ユーロのファイナルを連続して経験というのなら、もしかすると前例があるのかもしれないけれど、別のチームを率いてとなると、どうなんだろう。少なくとも現在もっとも大舞台で実力を発揮できる監督と言っても過言はないだろう。本人の言うように、よっぽど運が強いのだろう。監督しての力量はもちろん、その天運も卓越しているのだろう。

優れたチームプレイ点では共通するものの、ポゼッションに重きを置きつつ、デコ、フィーゴ、クリスチャン・ロナウドの個人技から得点を狙うポルトガルと、逆にイタリアのカテナチオを彷彿とさせる徹底したマンマークから、ここぞというときの渾身のカウンターが身上のギリシア

大会前の状況でこのファイナルの組み合わせを聞かされたならば、そのクオリティに疑問符がなげかけられたであろう、この一戦。しかしながら、物語を共有してきた今となっては、なんの疑いもなく、決勝にふさわしい一戦といえよう。

戦前の僕の見立ては、以下のようなもの。

ギリシアの徹底したマンマークにどういう術をポルトガルが打ってくるのか。これに対して明確な戦術を用意しなければ、ポルトガルの勝機はおそらくないだろう。ポルトガルができることは、ギリシアマンマークをうまくはずし、できるだけ早いタイミングで先制点を取ること。試合が長引けば長引くほど、ギリシア有利になるだろう。

逆にギリシアとしては、どのタイミングで得意のカウンターおよびセットプレイを喰らわせるか。相手にギリシアペースで攻め込ませながら、うまくタイミングを見測ることができるか。いつもどおりの試合が、浮き足立たずに、この大一番で展開できるのかどうか。といったところだろう。

そして、個人的にはギリシアがちょっと有利かな、という印象。つうわけでギリシア応援つうことでパブへ向かう。

試合は、前半は両者の思惑が錯綜した複雑な展開だったと思います。ポルトガルからみれば、右サイドバックのミゲルの積極的な攻撃参加は、ギリシアマンマークを外しつつ、いい形での攻撃ができそうな予感を漂わせていたし、逆にギリシアとしてみれば、それでも決定的なチャンスはそうそう与えていないし、逆に切れ味鋭いカウンターが充分に得点の匂いを醸し出している。均衡した前半だったと言えるでしょう。

ただ、前半終了間際に頼みにミゲルが故障により交代してしまうと、ポルトガルとしては、効果的な攻撃が組み立てづらい状況に陥ったと言えるのかもしれません。

ハーフタイムに近くに座っていたおっさんとちょっとばかし前半について会話した。お互いにいい試合だということで意見は一致。でもあとでわかったんだけど彼はポルトガルを応援していたらしい。そしてパブ中を見渡しても、ポルトガルを応援していた唯一の人間だったわけで、後半は散々からかわれていました。パブの店員にすら。

後半に入るとどういったわけか、これまでポストプレーに入ってもなかなか前を向けなかったギリシア攻撃陣が、結構な割合で反転してゴールへ向かえるようになる。その一方で、ポルトガルはこれまでや、前半に見せていた、流動的かつ効果的なポジションチェンジが見られなくなる。

そうこうしているうちに、チェコ戦のリプレイを見ているかのような、セットプレイからあっさりとギリシア先制。パブ中、一人を除いて、祝福の拍手。

今回のポルトガルはすごくいいチームなのは間違えないのだけれども、もはやこの国の伝統になりつつある、FWの質がここにきて、足を引っ張っているような印象。パウレタは悪くはないし、ヌーノ・ゴメスの嫌いじゃないが、ヨーロッパの他の国と比べると、どうも勝負弱さのほうが目立つ。実際に、今日のパウレタは運動量は申し分ないとはいえ、決定的な仕事はほとんど出来なかった。これは代わりに入ったヌーノ・ゴメスにしても同じことが言えるだろう。

絶対に与えてはいけない先制点を相手に取られ、遮二無二攻めなくてはいけなくなったポルトガルは、パウロ・ソウザヌーノ・ゴメスを相次いで投入。見ている限りでは、左ウィングだったクリスチャン・ロナウドをトップに上げ、2トップにして、それを中盤がサポートして攻撃を組み立てようという意図のもよう。しかしながら、多少空回りしている印象。なにせ、ペナルティエリアの前あたりでほとんどパスコースがない。スペースもない。そしてギリシアマンマークとここぞのオフサイドトラップが効果的にポルトガルの攻めをいなす。

どこかのアホが乱入したせいで、ロスタイムが長めに取られたものの、ギリシアは最後まで集中力を切らすことなく、守りぬき、優勝。

パブ中で祝福の拍手のなか、さっきのおっさんは、悔しそうに拍手をして、ふてくされて外にタバコを吸いに行ってしまった。

とはいえ、ギリシアをここまで鍛え上げたレハーゲル監督と、大一番でそのシナリオをきっちりと演じきったギリシア代表は、素晴らしいチームだったと思います。次の課題は、この最大瞬間風速をどれだけの期間維持できるのか、ということなんでしょうが、おそらく国を挙げて、オリンピック世代の育成が進んでいると思われるので、向こう数年から10年ぐらい、この勢いを維持できるのかもしれません。なにせ抜群の勝負強さを見せたとはいえ、誰か個人の能力に依存したチームではなかったわけですから。

そして、この大会を通じての印象ですが、優秀な監督によってきっちりと訓練されたチームであれば、もはやヨーロッパのトップレベルと考えられてきたチームと互角、もしくはそれ以上の戦いができるということが明らかになったのでしょう。そうすると、次のテーマは、そういう落日のトップチームが、いかに優秀なコーチを確保しつつ、チームとして纏まれるのか、これがヨーロッパのワールドカップ予選のテーマになるのでしょう。予選がなく、ことごとく監督候補に振られているドイツに少しばかり同情しますが、現状では明らかにババを引かされることが請け合いのこの仕事を、請けたくはないよな、とも思います。カタールにすごく野心的で引き受けてくれそうな監督が一人いますが、いかがでしょう?ちょっとマスコミ対応とか大一番での選手起用とか、問題はありますが。まあ彼のことだから、先のワールドカップでの経験をうまくフィードバックできていると思いますし。フランスも今回はお声を掛けていないらしいので、オファーを出せば、結構ひょこひょこ出てくると思います。ベンゲルとか夢を見るより、現実的だと思いますよ。東アジアのとある国もそういうつながりで監督をお願いした経緯がありますし。

最後に、今回のギリシアの活躍をどう日本代表に結びつけたらいいのかについて。

日本にとってマイナスになることは、世界中の今現在それほどサッカー大国と認知されていない国々に夢と希望と現実的な処方箋を与えてしまったということがあるでしょう。実際、アジアのワールド・カップ一次予選で既に日本はそれに近い経験をしているわけで、この傾向はこれからさらに加速度を増すのでしょう。特にこれまでもこのスタイルに近いサッカーを実践してきた中東勢にとっては、今回のギリシアは最高のお手本となったと思います。

プラス面は、日本だって決してサッカー大国でない以上、ギリシア・サッカーの良さを積極的に取り入れることが可能だということです。無論、ジーコにそれだけの能力があるかは置いておくとして。そして何より、ギリシアにだってユーロが取れる時代に、日本がワールド・カップを、次でなくとも、いつの日か、取れるということを夢想することぐらいは、許されるのではないでしょうか。そう、いつかきっとね。

*1:僕は残念ながらこの試合を見逃しているのだけれども